HISTORIC SEASON 2016
Ascot GBR
室屋義秀/Team FALKEN、Round of 8で惜しくも敗退。 タイトなポイントを敢えてぎりぎりまで攻めた、その訳とは。
Round of 8敗退もファイナルを見据えたトライが勝つための戦略を学ぶレースとなった。
8月14日(日)レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2016、第5戦・決勝が英国・アスコットで開催され、室屋義秀/チーム・ファルケンは、予選、Round of 14ともに好タイムをマークするも、Round of 8で痛恨のパイロンヒットとなり、ファイナル4進出を逃し8位。年間ランキング6位でシーズン後半戦を折り返す形となった。
今回、レース会場となったのは、1711年に設立され、英国王室所有の伝統と文化が感じられるアスコット競馬場。3年連続開催となる今大会も、競馬場と隣接するゴルフ場の両敷地にわたってレーストラックが設営され、観客席の目の前から離陸しスタートゲートに向かう“スタンディング・スタート”方式がとられるユニークなレイアウトになっている。
スタートゲート通過時の進入角度にも規定があるため、選手たちは、離陸後、すぐに上昇し、その後、降下しながら加速をつけつつも、進入時には機体を水平に戻さなくてはならない。また、スタートゲート通過直後にはバーティカルターンを要するゲートが設定されており、その後に続くコースにも高い木々に遮られゲートを目視することができない林越えの箇所がある上、ターン自体も大きく回り込まなければならず、タイミングをつかむのが難しいため、選手たちは頭の中ではっきりと全体のコース取りのイメージを確立しておくことが重要になる。大きな弧を描く形に設定されたレーストラックは、一見、シンプルに見えて、(他のレース会場ではあまり見られない)起伏も多く、各セクターの要素を一つずつ解析していくと、様々なテクニックを要するタフなレーストラックであることが分かる。
しかし、昨年、同トラックで3位に入賞した実績を持つ室屋は、金曜日に始まったフリー・プラクティス・セッションから好タイムをマークし、フライト毎にタイムを着実に縮めてきた。土曜日に行われた予選でもミスなく『狙い通り』のフライトで3番手につける好調ぶりを見せ、翌、日曜日に行われたRound of 14では自身最速の1:04.310(ノーペナルティ)をマークし、カービー・チャンブリス選手(米国)に1.869秒差で手堅く勝利をおさめた。
続くRound of 8は、当初、対戦予定だったピート・マクロード選手(カナダ)が、フライト終了後のデータ解析でエンジン回転数が制限値を超えていたためDQ(失格)となり、マイケル・グーリアン選手(米国)との対戦に。
ここまで好調だった室屋は、フライト前半、グーリアン選手をしのぐタイムでこのまま逃げ切るかと思われたが、自身も今コースのポイントと語っていたゲート6で痛恨のパイロンヒットにより3秒のペナルティが加算され、1:06.874となり、グーリアン選手に0.980秒及ばず、惜しくも敗退。8位で今大会を終えた。
大会終了後、室屋は
「Round of 8のヒートではそこまでプッシュする必要はないとはわかっていたのですが、(Round of 14で)マティアスが良いタイムを出していたので、ファイナル4の前に一度このヒートで練習をしておこうと考えていました。風の流れが変わって、ゲート6でパイロンヒットしたのは分かったので、なんとか(ペナルティの)3秒を取り戻そうと後半、最後まで押し込んだのですが、(グーリアン選手のタイムに)わずかに届きませんでした。最終的に自分のミスです。
今大会、フライト全体のセットは非常に良い形で成果が出ていて、“飛行のセットアップ”自体は確実に良くなっていることが実感できましたが、“レース展開”に対するタクティクス(戦略)についてはまだまだ経験の少なさを感じたので、今後は速く飛ぶためのテクニックとは違う、“レースの結果を出すためのテクニック”も勉強するシーズンだと思って、次の3戦は固くファイナルに進みたいと思います。」と語った。
コースの特徴を知り尽くした上で、あえて攻め込んだ「ファイナルを見据えたトライ」。それが、Round of 8で見せた『攻め』のフライトの理由だった。
結果、Round of 8もタイムだけ見れば、勝てないヒートではなかった。しかし、敢えて攻めた結果の敗退。今回、室屋がレース後に語った「レース展開に対する戦略の重要性」。そこに、常に上位に顔を揃えるチームたちが持つ「強さ」の一端が見えた。
Finalに確実に勝ち上がるには“速さ”だけではない、“勝つためのテクニック”も重要な要素であることを実感したのも、チームが上位ステージで戦っているからこそ見えた新たな課題だろう。今シーズン、“勝利”に向けて着実に進化してきたチームにとって、今年の残り3戦は“勝つための戦略”を学び、「真の強さ」を体得する意味でも重要なレースとなる。