HISTORIC SEASON 2015
Spielberg AUT
室屋義秀/チーム・ファルケン 2戦連続の表彰台はならず 突如襲った強風に泣く
レースの会場となったのはF1オーストリアGPが開かれることで知られるサーキット場レッドブル・リンク。牧場が広がる山のふもとののどかな環境にあるサーキット場でのレースは、その一方で常に変わりやすい“山の天気”に翻弄され、大波乱となった。
9月4日のトレーニングセッションは無事に行われたものの、予選が予定されていた翌5日は強い雨に見舞われ、12時すぎに予選のキャンセルが決定。2009年のエアレースデビューから今季が4シーズン目となる室屋義秀(チームファルケン)にとっても、予選のキャンセルは初めての経験だったが、ある程度事前に予想できたことでもあり、落ち着いた様子で次のように語った。
「あくまでも予選が行われる前提で朝からいつものルーティーンで準備をしていましたが、昼にキャンセルが決まったので、精神的には一度レース・モードをオフにしたという感じです。前日(9月4日)のトレーニングセッションで今回改良した箇所にうまく機能していないところがあって元に戻す作業をしたので、そこを予選のフライトでチェックしたかったのですが、この天気では仕方がありません。飛びたいと思っても雨はやみませんからね」
予選キャンセルを受け、翌日のラウンド・オブ・14は、第5戦終了時点での年間総合順位をもとに対戦カードが決定。これにより室屋は、今季第4戦から3戦連続同ラウンドでマティアス・ドルダラー(ドイツ)と対戦。レースデイの6日は、空に多少の雲はあるものの、幸いにして朝から好天に恵まれ、これなら室屋も雨の心配をすることなく、好条件でレースが行えるかに思われたが、室屋は前日に続き、またも変わりやすい“山の天気”に泣かされることに。全7組のヒート方式で行われるラウンド・オブ・14。開始直後は暖かな日差しに照らされていたレーストラックに突然風が吹き始めたのは、最初の2組が終わったころだった。
最初は木々を揺らす程度だった風も瞬く間に強さを増し、会場内のあちこちにある看板類を倒すほどに。当然、その影響はレーストラック内にも及び、真っすぐに立っていたはずのパイロンもまた、大きく揺れ動き出し、室屋の直前にフライトしたハンネス・アルヒ(オーストリア)が何とスタートゲートにパイロンヒット。アルヒの直後に飛んだ室屋もまた、「離陸直前に風が吹いて気流が荒れていましたが、離陸してからさらに風が強くなりました」と振り返る厳しい条件下でのフライトを強いられることに。
「予定通りのラインだと4 番ゲートから5 番ゲートにうまく入れない」と判断した室屋は、急きょライン取りの変更を決断。「大きく回り込むようにラインを変更しました」が、その分5 番ゲートに入る角度がきつくなり、パイロンヒットこそしなかったもののインコレクトレベル(ゲートを水平に通過せず)のペナルティを犯し、2 秒が加算され、室屋のタイムは1 分00 秒736。後攻の優位性を生かしたドルダラーは慎重なフライトに徹したことで、ランタイムでは室屋に1 秒以上遅れた59 秒811 だったが、ノーペナルティで切り抜け、室屋はラウンド・オブ・8への進出を逃した。
このラウンド・オブ・14 では、室屋の後に飛んだマット・ホール(オーストラリア)もパイロンヒット、同じくポール・ボノム(イギリス)もインコレクトレベルにより、それぞれペナルティタイムが加算。彼らのような実力者でさえ珍しくペナルティを犯したという事実が、いかに厳しいコンディションでのフライトが行われていたかを物語っている。
強風という思わぬ敵に上位進出を阻まれた室屋は、レース終了後、悔しさを露わにしながら、「ラインを変えたことで、5 番ゲートでのバンク(機体の傾き)がギリギリになることは分かっていましたが、フライト自体はうまくいったと思います。ビデオで確認しても、正直、ペナルティはなかったのではないかと思うくらいです。ラインの変更はエンジンをかける直前に決めましたが、そうした変更は滅多にあることではありません。レースの最中にこれほど大きくコンディションが変わることはありませんから。ただ、もちろん風の影響はありましたが、それをコントロールするのがパイロットの役割です。ペナルティにしても誰がどう見ても疑惑を持たれないように飛び続けなければいけません。(風がなかった)最初に飛んだ人と、(風が強くなった)最後に飛んだ人では2 秒くらいタイムに差がありますし、運の要素も大きくはらんでいるレースになりましたが、そうした様々な要素が絡んでくるなかで、どう安定した戦いをしていくかはこれからの大きな課題です」と語った。