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仲間が翼を駆動する
LEXUS PATHFINDER AIR RACING 2022 Season End Fan Meeting 開催レポート

2022年11月5日、ふくしまスカイパークでLEXUS PATHFINDER AIR RACING ファンミーティングが開催された。2019年のレッドブル・エアレース終了以来、室屋義秀の活動を支えて下さっているファンの皆様への感謝。そしてLEXUS PATHFINDER AIR RACINGを結成してからほぼ1年間の活動報告。それらを直接お伝えしたいという、チーム全員の想いから企画されたイベントだ。

またLEXUSからエアレース機、エアレース機からLEXUSへと、自動車と航空の垣根を超えてつちかわれたLEXUS PATHFINDER AIR RACINGの技術。LEXUSエンジニア自らがファンの皆様にご紹介し、体験コンテンツでの触れ合いも通じて、開発秘話や将来への展望などをお伝えする場も設けられた。

「心が折れかけた」 ピンチが強くした仲間との絆

オープニングフライトを披露した室屋は、着陸して機体から降りると休む間もなくハンガー1特設ステージに登壇し、オープニングトークを始めた。エアショーや「大空を見上げようプロジェクト」などを精力的に続けてきた室屋だが、エアレースにフォーカスしたイベントでファンの前に現れるのは久しぶりだ。

2021年に新生エアレースの開催が発表され、それと呼応するようにLEXUS PATHFINDER AIR RACINGの結成も発表した。当初予定されていた2022年3月の開幕戦へ向けて、愛機Edge540を誰も見たことのない最強の飛行機へ作り替える、ハードスケジュールが始まった。

しかし、新型コロナウィルス問題やウクライナでの戦争など、年が明けても困難な情勢が続き、エアレース開幕戦は延期が繰り返えされる。ついに8月、年内のエアレース開催は中止が決定した。全てのファンが残念に思いながらも、再開を待ち続けているエアレース。室屋はどんな思いで活動してきたのか。

「心が本当に折れかけていましたね」

アスリートとして常に力強く、前向きな言葉を発してきた室屋が、これほど弱気な言葉を発するのは珍しい。驚いたファンもいたのではないだろうか。

「僕もがっくり来ていたので、みんなそうだろうと思っていたらLEXUSの皆さんは、レースをしていればそういうこともあるさと。車作りも同じで、技術の下準備を積み重ねているから、新型車には目に見えないテクノロジーがいっぱい入っているんだ。こういう時こそ下を向かずに、淡々と進めて行こうよと言ってもらって。

こういう一番きつい状況のときに、人に寄り添うLEXUSというブランドの価値、思想の深さを感じました。20年やってきた中で辛いことはいっぱいあった。そんな中で今も一緒にやっている仲間は、本当に生涯つきあっていく仲間なんだろうなと思いますよね」

そんな出来事からまだ3カ月弱。過ぎた思い出として語るほど、昔の話ではない。新生エアレースの開催もまだスタートを切れていない。そんなタイミングでの熱いトークを、集まったファンはじっと聞いていた。そう、ここにいるファンもただの「観客」ではない。チャレンジを応援する「仲間」だ。

2023年「プランB」も視野にエアレース再始動

そしてもちろん、ファンにとっての大きな関心事は、来年こそエアレースが再開されるのか、だ。

「来年のエアレース開催へ向けた準備は動いていますが、まだ定かでないところもあります。もしもまた大会が開催されないという事態に陥っても、日本国内でエキシビションをするような『プランB』を考える必要があると思っています。そのためにはファンの皆さんの力がないと絶対に実現しない。国内イベント実現は、エアレースでワールドチャンピオンを取るよりもハードルは高いかなと思っているぐらいなので、本当にみんなの力が必要です」

自分の力ではどうすることもできなかったエアレース休止の中、LEXUSとの強いパートナーシップが支えた2022年。そして2023年に新たなエアレースを再始動するパワーは、イベント会場に集まったファン、そしてこの日来られなかった全てのファンの熱い応援だ。

本物のLEXUSエンジニアがファンと交流

気持ちの良い秋空に恵まれたふくしまスカイパーク。エアレースよりゆっくりと、和やかな時間が流れる。会場にはエアレースで培われた技術を取り入れたLEXUS LC AVIATIONをはじめ、SUVタイプのLXなど6台のLEXUSが展示された。

テックセクションではLEXUSの技術で開発されたEdge540のカウルや操縦桿、「室屋義秀を丸裸にする」を合言葉に様々なテストに使われた計測装置などが展示され、レース機開発に関する様々な技術体験ができる、特別なセッションも行われた。

解説や体験を担当したのは、実際にLEXUS PATHFINDER AIR RACINGで技術開発に携わったエンジニア達。もちろん本業は、LEXUSをはじめとするTOYOTAの自動車の設計製造、基礎技術の研究開発など。自動車を作る世界最高のプロフェッショナルに直接、話を聞くことができるのも貴重な機会だ。

テックセクションはそれぞれ参加人数が限定されるため、先着順で参加できるセッションが決まっていた。そんな中、来場者からの熱い視線を浴びたのが、Edge540の模型を作る「ものづくりセッション」だ。

製作する模型は金属板を打ち抜いたシルエット状の部品を、リベットで組み立てるシンプルなもの。だが、見れば見るほど細部に至るまでよくできている。

それもそのはず。なんとこのイベントのために、LEXUSチームのエンジニア達が製作した特別品なのだ。航空機と同じ超ジュラルミンの板材は、表面が均一に艶消し加工され、縁の部分は丁寧に仕上げられている。まさにこれぞ、「LEXUSのこだわり」というわけ。また特徴的な主翼端のカーブは、Edge540の改良に際してLEXUSのエンジニアが工夫を凝らした「超ジュラルミンのプレス加工」技術で作られた。

ものづくりセッション参加者は、自分で組み立てた模型を持ち帰ることができる。今頃はそれぞれの家で、宝物として飾られていることだろう。

この日のために特別な仕立てが施されたBREITLINGブースでは、ポケットウォッチの分解組立体験を開催。精密な機械式時計の内部に触れられるのは貴重な経験だ。

カフェカウンター「よつ葉のクローバー FARMERS GARDEN」では、来場者にコーヒーやフルーツジュースがふるまわれた。

ポケットウォッチの分解組立体験中

よつ葉のクローバー FARMERS GARDEN

秋空を舞う機体に熱狂

イベントでは、オープニング、エアレース・デモンストレーション、エアショーの計3回フライトが行われ、このうちエアレース・デモンストレーションではEdge540 V3が使われた。

Edge540はエアレース専用機で、レッドブル・エアレースでは基本的に会場となる都市から都市へ直接輸送され、シーズンオフには整備や改良などの作業に集中するため、日本国内で公式にフライトを披露するのはレッドブル・エアレース千葉大会のみだった。

LEXUS PATHFINDER AIR RACING結成後は新生エアレースに向けて、ふくしまスカイパークで改良と飛行試験が重ねられてはきたが、エアレース競技以外の場で披露されるのは異例だ。

「スモーク・オン!」の掛け声と同時に、白い尾をまっすぐに引きながらふくしまスカイパークへ進入するEdge540。エアレースと同じパイロンをかすめてスタートを切る姿に、集まったファンの興奮は最高潮だ。

立てられたパイロンは1本(2本用意されていたが、強風のため1本のみとなった)だが、ファンの目にも、室屋の目にもレースコースに林立するパイロンの姿がはっきりと見えている。シケインを縫い、バーティカル・ターニング・マニューバーを舞う。そして響き渡るLycoming AEIO-540エンジンの音は、あの日の千葉の、そして待ち望んでいる「次のエアレース」そのものだ。

楽しんでいるのはファンだけではなかった。結成以来1年、エアレースで勝利する飛行機を作り上げてきたLEXUSのエンジニア達も、Edge540の美しい姿に歓声を上げた。

自動車技術では世界トップレベルのエンジニア集団とはいえ、飛行機に携わるのは初めて。自分が作った部品が初めて飛行試験をしたときは、「どうか無事飛んでくれ」と祈るような気持ちだったという。そうして1年かけて創り上げたEdge540が、大勢のファンを縦横無尽のフライトで魅了している。今回は1/1000秒を追求する本番のレースではないとはいえ、まさに夢見てきたエアレースさながらの高速フライトと観客の喝采。ファンと全く同じ笑顔で見上げるエンジニア達の胸の中にも、熱い想いがこみ上げた。

残り2回のフライトには国内エアショーでおなじみのアクロバット機、Extra330LXとExtra330SCが使われた。エアレースとは全く違う、自由自在で摩訶不思議なフライトは、「空を飛ぶのはこんなに自由で、楽しいことなんだ」と室屋が語りかけているようだった。

仲間とともに 2023年への挑戦

室屋ファン、飛行機ファン、そしてエアレースファンが福島の秋空の下で、最高の休日を過ごした。仲間がいれば、夢は実現できる。室屋義秀とLEXUS PATHFINDER AIR RACINGチーム、そしてエアレースを待ち望む全てのファンが、その思いを確信して家路についたことだろう。

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室屋選手が登壇したメインステージおよび特別にパイロンを設置して行われたエアレース・デモフライトの様子はYouTubeチャンネルからご覧いただけます。

視聴リンク→ https://youtu.be/KSGTpeoioiM

レースチーム結成から1年。チームのこれまでの歩みや想い、今後の活動について室屋義秀選手が語ったコラム(ロングインタビュー前編)はこちら:

https://lexus-pathfinder-airracing.com/column/column-839/

 

Text by Tsuyoshi Ohnuki

Photo by Keisuke Kato