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2025シーズン第2戦 予選レポート
逆転を狙う第2戦、鍵を握る“新兵器”
開幕戦を終え、パトリック・デビッドソンがランキング首位に立ち、室屋義秀とのポイント差は10。限られた試合数の中でこれ以上離されると逆転は困難だ。室屋が「第2戦は天王山」と語る通り、今大会はシーズンの行方を左右する勝負所となった。
負けられない戦いに、チームは新兵器の投入を決断した。LEXUSと開発した、新形状のウイングレットである。
レース機が急激にターンする時、主翼端には後方に向かって強く渦を巻く気流が発生し、大きな抵抗を生む。ウイングレットはその抵抗を緩和するため、主翼の先端に装着する空力パーツだ。
これまでのウイングレットは、主翼端から立ち上がり、後ろに傾斜した形状のものだった。今回新たに製作した新型ウイングレットは、これまでとは異なり前部の傾斜角はなく、後部から前方に向かって曲線を描きながら先端に至る独特の形状だ。基本設計をした技術者の愛称「CHICO(シコ)」から、チーム内では「CHICOLET(シコレット)」と呼ばれている。
テクニカルコーディネーターの中江雄亮氏は「旧来のものより理論的に翼端に発生する渦が小さく、抵抗が最小限になる楕円翼のラインにしています。ただ、詳細は秘密です」と語る。
室屋選手も操縦フィーリングの違いを「ターン時の瞬時に必要とされる修正操舵が低減した分、0.1秒単位でターンが速くなっています」と語る。

(c) Miho Harada PATHFINDER

(c) Miho Harada PATHFINDER
“10Gの先にある勝機” ― 精密なターンと直線抜けの駆け引き
フライトは、梅雨とは思えぬ暑さの中で行われた。東北地方とはいえ、盆地に位置する福島市は暑さが厳しい。
今回のトラックも開幕戦同様、小刻みに各種の折り返しターンを繰り返すレイアウトだが、折り返しターンを終えた後、次に待ち構える2つの連続ゲートを直線的に飛び抜けられるラインがわずかながら存在する。10G以上の荷重に耐えながらターンし、その厳しいラインに向け正確にレース機を導けるかがタイム向上の鍵だ。
「ターン時にかかるGのコントロールと、エネルギー(速度と高度のトータル)マネジメントの成否で1、2秒はタイムが変わる。Gをかけすぎないギリギリの加減でターンし、次のゲートへのラインに乗せられるかが大事(室屋選手)」
室屋選手は順調にタイムを刻んだが、パトリック選手も素晴らしいタイムをマークする。
今シーズンから、プラクティス(練習)と予選のフライトは、タイムと同時に飛行した軌跡も3Dデータとして各パイロット間で共有されるようになった。

(c) AIR RACE X
「(このシステムが導入されたことによって)パトリックは我々の飛び方を研究しているんじゃないか。こっちも同じことが言えるけど、パトリックはAIR RACE Xの戦い方にいち早く適応し、うまく飛んできている(室屋選手)」
室屋選手とパトリック選手が引っ張り、それにルーキーのアーロン・デルー選手と参戦2年目のエマ・マクドナルド選手が食らいつく形で予選は展開した。室屋選手対新鋭3人という構図とも言える。
開幕戦の決勝トーナメントでは、初戦の準々決勝でパトリック選手がオーバーGでDNF(ゴールせず)というハプニングがあった。この時は対戦相手のエマ選手がフライトできず、タイムなし(DNS)となったため、命拾いする形で準決勝に進出できたが、このような幸運はそうそうない。
ギリギリのラインを攻めなければタイムは出ないが、攻め過ぎれば今度はオーバーGなどペナルティのリスクがある。いかに安定した速さを重ねられるかが、優勝への鍵となるだろう。
Text by Tamaki Sakimura