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【決勝レポート】2024年シーズン最終戦 激戦の末、AIR RACE X 初のシリーズチャンピオンに輝く
初のシリーズチャンピオンが決定する、Race 3渋谷デジタルラウンド。ランキングトップを走る室屋選手は予選1位で8ポイントを加算し、67ポイントで決勝トーナメントに臨んだ。
予選開始前の時点でシリーズチャンピオンの可能性を残していたのは、室屋選手のほかオーストラリアのマット・ホール選手(48ポイント)、南アフリカのパトリック・デビッド戦選手だった。
シリーズチャンピオン争いの行方が決まる渋谷デジタルラウンド
その後予選で室屋選手が1位、ホール選手が2位(5ポイント加算で53ポイント)、デビッドソン選手が3位(3ポイント加算で38ポイント)となり、もしデビッドソン選手が優勝し、室屋選手が最下位に沈んでも逆転することは不可能となった。勝負は室屋選手と、14ポイント差で追いかけるホール選手に絞られた。
とはいえポイント差を考えれば、室屋選手が圧倒的に優位なのは変わらない。ホール選手が逆転でチャンピオンになるためには、自身が優勝して室屋選手が5位以下に終わるのが条件だ。室屋選手としては、準々決勝で負けなければチャンピオンの座を得ることができる。
その大事な準々決勝、対戦相手は予選8位に沈んだオーストラリアの新鋭、エマ・マクドナルド選手だ。エマ選手はホール選手の弟子ということもあり、なんとか室屋選手を負かし、師匠の後押しをしたいところだ。
準々決勝でエマ・マクドナルド選手を下し、チャンピオン確定
気象条件によるハンデキャップ(タイム補正)の差から、室屋選手が0秒437先行してスタート。スタート時の速度は室屋選手が1ノット上回ったが、ゲート4からゲート5へ折り返すローターンでマクドナルド選手が逆転した。
しかし室屋選手は慌てない。次のハイターンで再びリードを奪うと、そのままマクドナルド選手を引き離してゴール。マクドナルド選手はゲート通過時の姿勢違反(クライミング・イン・ザ・ゲート)を2回、計4秒のペナルティを喫してしまい、最終的に5秒あまりの大差をつけての勝利となった。
これでシリーズチャンピオンの座は確定した訳だが、やはり優勝してダブルの栄冠を手にしたいところだ。準決勝の相手は、実力者ソンカ選手を退けて勝ち上がった、フランスのミカ・ブラジョー選手となった。
ブラジョー選手のレース機は、マクドナルド選手と同じMXS-R。2機しかいない相手と連続で当たるというのも珍しいことだが、勝負は意外なまでの大差をつけて室屋選手の勝利で終わった。
ハンデキャップ上はブラジョー選手が0秒556有利な条件だったのだが、強風の中タイムアタックをせざるを得なかったようで、風に流されてターンが膨らんだだけでなく、ゲート通過時のペナルティも複数回記録してしまった。約16秒5のタイム差は、これまでのレースで最も大きいものとなった。
決勝戦はライバル、マット・ホール選手との大接戦
迎えた決勝はマット・ホール選手との対戦。2024年シーズンの最終決戦にふさわしい組み合わせだ。タイムを比較すると、準々決勝、準決勝ともホール選手の方が速い。室屋選手にとって厳しい戦いが予想された。
ハンデキャップの差で、室屋選手が0秒415先行してスタート。しかし最初の折り返しで逆転され、前半はホール選手を追いかける形でレースが進んでいく。
ホール選手がわずかに先行した状態で後半に突入するが、ついにゲート10から折り返すローターンで室屋選手が逆転に成功。ほんのわずかな差だったが、このリードを保ったまま室屋選手が先にフィニッシュ。息詰まる接近戦で、レースの醍醐味を存分に味わえる名勝負だったといえるだろう。
勝負を見守っていた室屋選手に心境を尋ねると「こっちの出したタイムは分かっているので、準々決勝、準決勝と向こうがいいタイムを出してきていたんで、ちょっと厳しいかも……とドキドキしながら見ていた」と、珍しく弱気な言葉が返ってきた。しかしそれも、勝てたからこそ口に出せた言葉だったのかもしれない。
そして、これまでのリモートラウンドとは違い、今回の渋谷デジタルラウンドではレース後にステージイベントがあり、集まったファンの歓声を直接耳にすることができた。その点についても「嬉しかったと同時に、すごく楽しかった」と室屋選手は笑顔で振り返った。
室屋選手は今シーズンを振り返り、3レースのうち1レースでも完全に落としていればチャンピオンにはなれなかった、おそらくマット・ホール選手に逆転されていただろうと語る。
「1年通してはチームの総合力も試される。特にRace2、Race 3はコンマ2、3秒の差で勝ち抜いているので、機体の進化分がなければ逆転されていたと思う。どのレースも小さなピースの積み重ねで結果が変わっていたと思うので、総合優勝といっても、そこに至るまでには常にギリギリの戦いがあった」
来シーズンへの展望と挑戦
これで、2024年シーズンは終わりを迎えた。しかし、終わりは来シーズンへのスタートでもある。2シーズン、4レースを消化し、各チームもそろそろAIR RACE Xのレースフォーマットや戦い方に適応しつつあり、チャンピオンといえども油断は禁物だ。
LEXUS PATHFINDER AIR RACINGでは、すでに来シーズン以降を見据えて「いくつもプロジェクトは進行している」と室屋選手は明かしてくれた。「開発の進行具合を見ながら、開幕に間に合うもの、中盤から投入するもの……どれくらい機体が速くなるか楽しみ」。
また、LEXUSから参加しているクルーたちにも成長が見られるという。技術コーディネーターを務める中江雄亮氏(LEXUS)は次のように語る。
「特にRace 3から強く感じますね。最初の頃はまだ遠慮があったのが、今は自律的にできることを探して妥協なく取り組んで……。ベテランのリーダーたちもしっかり采配を振るって、今回からグッと一段違うステージに上がったと感じています」
相手関係について、室屋選手はどのように考えているのだろう。今回決勝でも戦ったホール選手はもちろんだが、2人のパイロットを挙げてくれた。
「パトリックはすごく研究してると思う。テクニシャン、エンジニアがいい計算をしているんじゃないかな。それからマルティン・ソンカも、多分いろんなセッティングなんかで苦しんでいるんじゃないかと思うんで、この辺みんなが分かりはじめてくると、もっとグッと差が詰まってくるんじゃないかと思う」
2024年は、戦う側も見る側も「AIR RACE Xというもの」が分かりはじめたシーズンだったといえるのかもしれない。この結果を踏まえて、2025年はどう勢力図が変化するのか。今から開幕が楽しみである。