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2024.09.10

-新たな歴史に向かって- AIR RACE X 2024 Race 2 レースウィークレポート

新たな歴史に向かって

2年目を迎え、全3戦のシリーズで構成される2024年のAIR RACE X。予選上位3名にもチャンピオンシップポイントが付与されることとなり、チームとして予選の戦い方も重要になってくる。室屋義秀選手はRace 1で26ポイントを獲得し、首位マット・ホール選手と4ポイント差の2位につけRace 2を迎えた。

Race 2の動きをレポートする前に、ここはやはり、決勝でマット・ホール選手によもやの敗戦を喫したRace 1を振り返らずにはいられないだろう。バーティカルローリングマニューバーで大きく姿勢を崩し、タイムロスにつながってしまった。

あのフライトについて、室屋選手は「強風の中、スーパーラップを狙って飛んだもの」と明かしてくれた。ワールドチャンピオンをつかんだ2017年のレッドブル・エアレース最終戦(インディアナポリス)では、吹き荒れる強風が「神風」となって素晴らしいタイムをマークした。その再現を目論んだのだという。

背景には、タイムアタックに費やす予定だった予選期間後半、天候に恵まれなかった面がある。雨や強風に見舞われ、ベストでなくても飛ばざるを得なかったのだった。

風が落ち着くまでフライトを延期したいところだが、一度レース機に本番用のタイム計測フライト用「トークン」を設定してしまうと、90分以内にフライトを完了することが求められる。思った以上の強風をついてタイムアタックに臨んだが、バーティカルローリングマニューバーで高く上昇したところで地表面とは異なる方向からの強風に遭遇し、対処が遅れてしまったのだという。「戦略ミスだった」と室屋選手は振り返った。

さて、Race 2のトラックレイアウトは「EDO」というサブタイトルがつけられており、東京のとある川を舞台にモデルが作られている。特徴的なのがターン数の多さで、ゲートの間を何度も折り返していく忙しいものだ。

室屋選手はポイントとして、Gate 4からローターンでGate 5に折り返し、すぐさまGate 6へフラットターンで引き返した後、ハイターンをしてGate 7に向かう部分を挙げた。Gate 4でのローターンは斜め上に上がってフラットターン気味に回るので、ちょうど8の字を描くように飛ぶ形になる。「ここでは10Gのターンが連続するので、体力的にも大きな負担がかかる」のだという。

また、飛行時の気象条件をイーブンにするため、飛行場所と気圧や気温などの気象状況を総合的に勘案して算出されるハンデキャップ(タイム補正)が設けられているのがレースの特徴だが、風については飛行中に変動することがあるために補正要素となっていない。風が有利になるか不利となるかは、タイムを大きく左右する。

室屋選手が飛ぶ福島県福島市のふくしまスカイパークの場合、スタートは北に向かって飛んでいくことになる。ハイターンの向きも同じなのだが、この時向かい風になっていた方が飛行機にとっては有利だという。北風がタイム向上の鍵だ。

 

レース機の方もRace 1からさらにアップデートされた。大きく変わったのがキャノピー内部に情報を投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)だ。

戦闘機のコックピット装備としても知られるHUDは、視線を移動させることなく必要な情報を把握できるのが最大のメリット。エアレースでも、高いGのかかる状況下では視線の移動が難しい場合があり、パイロットにとってメリットは大きいのだという。

これまでのHUDが「バージョン1」だとすれば、新しい「バージョン2」は大変革を遂げた。投影される表示がより見やすくなったことで、飛行中の負担軽減につながっている。

今回の戦い方について、チームとしては「安定した状況でフライトを重ねてタイムを出す」ことを基本的な戦略とした。予選期間の前半は台風10号の影響で天候に恵まれなかったが、リアルタイムで公式サイトに表示される他のパイロットの予選タイムを見ながら、後半に勝負するという当初の予定には影響がなかったようだ。

ジリジリと日本列島を進んだ台風10号の影響を脱した9月3日、チームは本格的なフライトを始めた。午前のプラクティスで調子の良さを感じた室屋選手は、そのまま予選用のタイム計測に移り、いきなり60秒950をマークして暫定1位に躍り出た。その時点で2番手となったフアン・ベラルデ選手が2秒のペナルティを受けつつ63秒550だったので、ペナルティ分を差し引いても0秒6の差をつけたことになる。

良いタイムがすぐに出たこともあり、チームは予選2本目のタイムアタックを一旦保留し、他のパイロットがポストする予選タイムを見ながら、決勝トーナメントの戦いを見越したフライトを重ねていく方針とした。予選のタイムはすぐに公式サイトで公開されるが、決勝トーナメント用のタイムは決勝当日まで公開されることはない。

室屋選手は決勝トーナメントの戦い方について「まずは準々決勝が重要。ここを落としてしまうと、ほとんどポイントを稼げずに終わってしまう」と話す。ペナルティを受けてしまうと大きな損失となるため手堅く速いタイムを出し、その上で準決勝、決勝のタイムをさらに刻んでいくという作戦だ。

順調に決勝トーナメント用のタイムを出しながら、迎えた9月6日。チームは最後のタイムアタックを実施した。午前9時からスタートし、プラクティスの飛行で空の状況を確かめると、暫定3位に落ちていた順位を挽回する予選2本目を含むタイムアタックに移る。

ゴール直後にタイムの速報値を確認し、地上で見守っていたチームクルーは拍手。よほど素晴らしいラップだったようで「すごい……想定以上だ」と驚嘆する声も聞かれた。

室屋選手も手応えを感じたようで、最後の飛行では後方から低空で目の前に旋回してくる「スニークパス」を見せるサプライズ。着陸後はにこやかに親指を上げるサムアップサインを示し、チームクルーと握手を交わした。

飛行後に公式サイトで公開された、2本目の予選タイムは60秒058。再びトップに返り咲き、予選ポイントとして8ポイントを獲得した。

8名のパイロット全員の予選タイムが明らかになり、準々決勝の組み合わせが決まった。室屋選手は予選8位に沈んだ実力者、マルティン・ソンカ選手と対戦する。

ソンカ選手とは過去にも重要な局面で対戦することが多く、いわば宿命の相手だ。気になるのが、最下位に沈んだ予選タイムだ。現在9ポイントとシリーズ6位となっている彼が逆転でチャンピオンを狙うには、準々決勝で上位の室屋選手やホール選手をくだし、ポイントを稼がせないことが重要になる。

「正直、またソンカかという気持ちもある。彼の予選タイムが目一杯のフライトだったのか、それとも決勝トーナメントで上位陣を引きずり下ろすための戦略か……」と、室屋選手も予想外だったソンカ選手の予選タイムに隠された裏側を気にするそぶりを見せた。予選タイムが振るわなくても、プラクティスを重ねて決勝トーナメント用のタイムが大幅に良化している可能性もあり、警戒をしているようだ。

室屋選手自身の決勝トーナメント用タイムは、納得のいくラップを重ねられたようだ。「準々決勝での対戦で、シリーズチャンピオンへ可能性を残せる選手が見えてくる。予選上位のパイロットとは決勝まで当たらないので、組み合わせ的には有利だ」と語る。

決勝用のタイムは「良いコンディションの中、ギリギリのギリギリを攻めて、コンピュータ上の想定より良いタイムをマークできたので、決勝まで残れたらいいフライトをお見せできると思う」と自信を見せた室屋選手。9月15日の決勝トーナメント配信を心待ちにしてほしい。